会期中、無料配布された短編小説集『ブックトープ山形』を手に、来場者が街をめぐり歩く姿がそこかしこで見られた。本を読むように街をとらえ、新たなストーリーで見ていくことに、これからの建築、空間、地域と暮らし方の、幸福なつながりを考える鍵がある。
中古物件や空き物件のリノベーションを多数手がけてきた竹内さんは、地域の価値を高めるという視点から、ストーリーの重要性を語った。空き物件を多数抱える地方で、建物と空間の可能性を広げるには、本をつくる上で欠かせない「編集」に似た作業が必要となる。例えば、そのエリアで暮らすことをイメージして、街並みをストーリー仕立てで展開させてみよう。
おしゃれなカフェのある通りに、美味しいパン屋や趣味のいい古着屋をつくるとする。その界隈に足を運べば、一度にいくつもの買い物を済ませられる。人が往来すれば、活気も生まれる。舞台をつくるように想像することで、そのエリア自体の価値が高まる。講演会や朗読会など、言葉で情報を発信するイベントは、場所を問わず最小限の設備があれば開催できる。
セミナーの会場となった7次元は、元傘屋をリノベーションしたカフェの店舗2階にあり、改装はされているものの、普段はあまり使用されていない。こういった、立地が良いにもかかわらず見落とされている〈空き空間〉は、ときおりイベント用に貸し出すだけでも、利益を産むことができ、そのエリアに人が足を運ぶようになる。空き物件の利用は、多くの可能性を秘めている。多くの地方都市と同様に、山形市では中心市街地の空洞化が進んでいる。使われなくなった不動産の良さを発掘し、そこを舞台に新たなストーリーを産み出すことで、街は魅力を恢復する。身近な場所で、「こうなってほしい」という物語を自ら進めていくことが、これからの地域での暮らしを豊かにしていくはずだ。
(東北芸術工科大学地域連携推進室)