{ レポート }

街がまとう、ローカル ファッションの行方
飛田正浩(spoken words project主宰/山形衣市 iitiファシリテーター)
森岡督行(「森岡書店」店主)
宮本武典(市プロジェクトコーディネーター/山形ビエンナーレプログラムディレクター)
県内の服飾産業とその背景にあるストーリーを、実際に服づくりに携わる人々とともに発信しようと、ニットやバッグなどオリジナルのコレクションをつくって発表した市プロジェクト発のブランド「山形衣市 iiti」。この市をファシリテートした「spoken words project」の飛田正浩さんが開いた山形の展示会に、「森岡書店」店主の森岡督行さんと「市プロジェクト」コーディネーターの宮本武典のふたりを迎えて、今回の試みを振り返りながら、山形ならではのファッションカルチャーのあり方を探った。
(2016年10月1日/とんがりビル1F KUGURUにて)

「山形ビエンナーレ2016」の会期中、文翔館の中庭に揺れたspoken words projectの作品「砂の女」。薄手のチュール素材や香水など、見えない存在によって物語は語られた。
コレクションのテーマに選んだ安部公房の小説は、かつて飛砂に苦しんだ山形県酒田市浜中の集落が舞台となっている。女と男、愛か諦めか、すり鉢状の集落の底で続けられた奇妙な共同生活。新種の虫を求めて集落にたどり着いた主人公の男のように、飛田さんはその舞台を何度も訪れ、物語の痕跡を辿りながら、服に仕立てていったそうだ。今回、県内の服飾企業とともに取り組んだ「山形衣市iiti」のプロジェクトでは、その作品テーマを踏襲したコレクションを制作。山形の服飾産業を発信するとともに、この街にファッションシーンを生み出すことを試みた。
東京を中心に盛り上がり消費されがちなファッションに触れる機会を創造し、楽しむ環境を地方でつくることはできるのか。山形県寒河江市出身で、現在は銀座で一冊の本を売る本屋「森岡書店」を営む森岡さんは、つくった人と買う人が適度な距離感で出会う場づくりと、つくる人自らが声を届ける大切さを語る。森岡さんいわく、長野の松本や熊本といった地方都市には、その街を拠点に服をつくる若者や個人経営のセレクトショップに多く出会うことができ、街特有のファッションカルチャーを暮らす人自らで育て、享受する環境があるという。
情報に手軽にアクセスできる現代だからこそ、ものづくりの現場から発せられる声、街の人々によって発せられるカルチャーが、その街の佇まいとなって現れてくるのだ。つくるための素材や技術が今も残り、ものづくりの過程を川上から体感することができる山形。服づくりに携わる人々自らが製品やその背景にあるストーリーを伝え、街の人々の生活にコミュニケートしていくことで、ものづくりと消費が地域の中で循環する「ローカルファッション」の可能性は広がっていく。

(東北芸術工科大学地域連携推進室)