{ レポート }

真室川町の風景を味わう「山フーズ」のレシピ
小桧山聡子(山フーズ)
佐藤春樹(伝承野菜農家「森の家」)
志鎌康平(志鎌康平写真事務所【六】)
高橋伸一(工房ストロー)
「山フーズ」の小桧山聡子さんの活動報告展「山フーズの『ゆらぎのレシピ』」にあわせて開催したトークショー「山フーズの『ゆらぎの食卓』」のレポートを、前編・後編でお送りします。

「山フーズ」の名前で、ケータリングパーティーやワークショップなど、「食とそのまわり」で活躍するアーティストの小桧山聡子さん。2017年、山形県最上郡真室川町の伝承野菜農家を拠点に、豊かな自然とともに生きる人々の食の現場を半年間取材しました。

その体験から感じた「ゆらぎ」をもとに制作したレシピを、写真・映像・テキストで表現した活動報告展「山フーズの『ゆらぎのレシピ』」展」(2018年2月8日〜18日 於・とんがりビル)にあわせて、トークショー「山フーズの『ゆらぎの食卓』」が開催されました。その様子をお届けします。

→ トーク「ゆらぎの食卓」レポート(前編)はこちら

◆ 3品目「川を食べるスープ」

トークショー「山フーズの『ゆらぎの食卓』」では、写真カードをめくりながら話を聞いた

──緑色がかった不思議な色のスープ。どんな食材を、どうやって調理したのですか?

佐藤 この取材では、川に簗を仕掛けて鮎を捕っている昭三さんというおじいさんを訪ねました。
※ 簗(やな)・・・河川に植物や木材、石を列にして設置し、水流をせき止め、泳いでくる魚を捕まえる仕掛け。

小桧山 鮎は苔を食べてるんですけど、川に入ると、石についた苔を鮎が食べた噛み跡が模様みたいについてて、すごく綺麗で。鮎の味が苔の味で、川の味そのものだなっていう気がしました。それであえて液体にして、スープにしました。川をそのまま飲んでるような料理です。内臓も全部入れてミキサーにかけたので、とても濃厚なスープになりました。簗にクルミもかかっていたので、その景色をイメージしてクルミを浮かべました。

宮本 クルミは川辺に生えていて、種が川に落ちて流れて散っていくようです。だから、簗にもクルミがたくさん引っかかっていたんですね。鮎の美味しさはその川に生えている苔の味で決まるとすると、鮎とは川そのものである、と言えるかもしれないですね。

◆ 4品目:「大地で焼く比内地鶏の丸焼き」

──いよいよメイン・ディッシュです。この料理についてお聞かせください。

食堂「nitaki」の壁に展示された写真。比内地鶏の丸焼きができるまでの様子。

佐藤 真室川町のはずれの養鶏家の、遠田さんを訪れました。周囲に家が一軒もないような場所で、比内地鶏を放し飼いにして、卵を販売している方です。ここで、鶏をわけてもらいました。

小桧山 鶏の解体の現場に立ち会ったのは初めてでした。鶏を締める前に、遠田さんに「持ってろ」って言われて。ほんの数分間でしたけど、抱いていた鶏があたたかかった。遠田さんに鶏を渡そうとしたら目が合って、私の顔を見て鶏が震えていて、錯乱状態みたいな目つきになった。そんなことが目の前で起きるとは思っていなくて。その鶏が目の前で締められていく様子を見ていました。首に刃物を入れて、ちょっとバタバタとして死んだ顔になって。

羽をむしるためお湯をかけた瞬間、表面だけ白くなって、生き物が肉になったって思った瞬間がありました。その後、丸鶏として使うものは、お尻に手を入れて内臓を引っ張り出したんですけど、あったかくて。その鶏を胸に抱いてた時のあたたかさを思い出しました。引っ張り出した内臓は、すごく美しかったですね。

植物に包まれた丸鶏/写真:志鎌康平

解体作業が手際よく進んでいくので、何かを考える隙間も無いまま、鶏が目の前で肉の状態になっていきました。翌日、調理しようとしても、前日に見たことを消化しきれていない感じがありました。あまり手を加えないシンプルな料理にしたかったので、味付けは塩だけ。調理方法は原始的な方法にしたいと思っていたので、焼いた石と一緒に土の中に入れて蒸し焼きにする方法をとりました。

下ごしらえで鶏に塩を塗り込んでいると、皮の弾力がすごくて。新鮮だから塩を弾くんですね。丁寧に撫でながら塩をすり込んで、山で採って来た葉っぱとか蔓で巻いていったんですけど、一連の行為がお化粧しているみたいだなと思えてきて。料理ってその素材そのものが美しい、一番いい状態になるように手を加える、祈りのような行為だっていう感覚がふっと湧いてきて。それは東京で料理をしていた時にはなかった感覚でした。

昨日胸に抱いていた鶏を一番美味しい状態にしたいと思って、気持ちが切り替わった瞬間でしたね。土の中に入れて蒸し焼きにするのも、埋葬しているような不思議な時間でした。焼きあがった鶏はすごく美味しかった。焼き目もすごく綺麗についていて、こんなに美味しい鶏を食べたことがなかったです。

──今後はどのように活動していきますか?

宮本 このプロジェクトはまだ続いています。真室川町といえば山菜なので、これから雪融けを待って、山菜の取材を行います。そして、今年9月の「山形ビエンナーレ2018」で発表します。その時は、佐藤さんの家で代々受け継がれてきた伝承野菜の甚五右ヱ門芋も紹介したいですね。

小桧山 半年間真室川町に通って、2泊3日の取材を終えるとまた東京に帰るというスタイルでした。さっきまで真室川町で石を焼いていたのに、帰ると東京でパーティーの打ち合わせをしたり、行き来してると振れ幅がすごい。その中で揺さぶられて感じられるものを毎回すくい取ろうとやってきました。私が体験して、ゆさぶられて感じたものを皆さんに少しでもお届けして、それを見た皆さんが何か自分の中で、普段とは違う感覚を揺さぶってもらえたらいいと思っています。

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※本稿は、新しい視点でローカルを発見し紹介していくサイト「real local山形」のご好意により、2018年3月29日掲載のイベントレポートを転載させていただきました。
https://reallocal.jp/51362