「山フーズ」の名前で、ケータリングパーティーやワークショップなど、「食とそのまわり」で活躍するアーティストの小桧山聡子さん。2017年、山形県最上郡真室川町の伝承野菜農家を拠点に、豊かな自然とともに生きる人々の食の現場を半年間取材しました。
その体験から感じた「ゆらぎ」をもとに制作したレシピを、写真・映像・テキストで表現した活動報告展「山フーズの『ゆらぎのレシピ』」展」(2018年2月8日〜18日 於・とんがりビル)にあわせて、トークショー「山フーズの『ゆらぎの食卓』」が開催されました。その様子をお届けします。
小桧山 伝承野菜農家「森の家」の佐藤春樹さん、農業と藁細工で活動する「工房ストロー」の高橋伸一さんに案内役となっていただき、真室川町でさまざまな食材と生産者の方々に出会いました。取材で毎回出会う食材に、私がオリジナルの料理を考えて調理し、味わうという流れでした。
私は東京生まれ東京育ちで、自然とか生産の現場との関わりが抜け落ちた都市の生活をしていることにコンプレックスを感じていました。そういう現場が身近に無いから、余計に気になってて。ある時、手づかみでものを食べてみて、普段の食事とは全く違う感覚を体験できたんです。
〈食べる〉っていう行為はいろんな感覚を使うこと。私が真室川町で生産者の方々のもとを訪れて、食材がまだ生きているところに出会い、調理して味わう中で感じたのは、自分の体と食べ物との関係、その間の〈ゆらぎ〉でした。私の体験を記録写真と文章、映像からみなさんに伝えて、食べるという行為を考えなおしてもらいたいと思いました。
佐藤 私は真室川町の珍しい食材や、旬が短いものなど、味わってもらいたいけれどなかなか機会が無いものを紹介するコーディネートを担当しました。「森の家」では伝承野菜の甚五右ヱ門芋(じんごえもんいも)を作っていますが、農家民宿も行っているので、このプロジェクトを通して、真室川町のことを知ってもらい、訪れていただくきっかけを作れたらと思いました。
高橋 私は今回取り上げていただいた食材のひとつ、伝承野菜の「勘次郎胡瓜(かんじろうきゅうり)」を作っています。「工房ストロー」として2年前から活動していますが、独立する前は真室川町の役場の職員をしていました。役場の仕事の中で真室川町の伝承野菜、食文化、手仕事など、魅力あるものが引き継がれず失われていく危機に瀕していることに気づき、それなら自分が引き継いでいこうと活動をはじめました。
志鎌 今回、記録写真と映像の撮影を担当しました。山形市出身で、真室川町には何度も通って写真を撮り続けています。今回はこれまでとは違う側面から真室川町を撮ることができました。
宮本 食を紹介するプロジェクトですが、今回の発表は食べ物を味わってもらうのではありません。真室川町の食材を山形市内にそのまま持ってきても、それは真室川町で食べるのとは全く違うものになってしまいます。森の中でキノコをとったり、川で魚を捕まえたりという風景そのものに触れなければ、味わえない食体験です。実際には食べなくても、写真や文章の表現から食べるっていう行為を伝えて、真室川町に行ってみたいと思ってもらうことが、このプロジェクトのねらいです。
トークショー「山フーズの『ゆらぎの食卓』」では、半年間の取材から生まれた料理が一品ずつ紹介されました。その様子をお届けします。
◆ 1品目:「記憶をつなぐ勘次郎胡瓜のサラダ」
──勘次郎胡瓜とはどんな野菜ですか?
高橋 平成19年に、真室川町で在来作物を発掘して地域の情報発信につなげていこうという活動がはじまりました。その時に見つかった野菜です。町からの呼びかけに「うちの隣の家で変わった胡瓜を作っているよ」と知らせてくれた方がいました。
普通の胡瓜とは似ても似つかない姿、色、食感で、鮮やかな黄色が特徴で、食べてみるとすごく美味しい。この胡瓜を育てていたお宅で先祖から受け継いできた胡瓜だということでした。代々、種を採って作り続けてきたので、在来作物とか伝承野菜っていう感覚はなかったんですね。今回、写真に撮っていただいたものは長さ30cmを超える、金色に近い大きな勘次郎胡瓜で、種採りのため畑で成熟させていたものです。
宮本 他の家の胡瓜と品種交配しないよう、山の中で隔離されて育てられていましたね。この佇まいにみんな感動して、胡瓜のお母さんみたいだねと話していました。
小桧山 熟してぱんぱんに詰まった胡瓜もあって、ちょっと触れたらパーンと弾けて。発酵したような匂いもすごかったですね。種を採る時は半分に切るのですが、包丁を入れる瞬間はすごく緊張しました。
──どんな風に調理したのですか?
小桧山 畑に行っていろんなお話を聞いてから、胡瓜を持って帰ってきました。台所で胡瓜を切り始めて、ふっと浮かんだレシピです。先祖代々、丁寧に種をつないできた色々な物語が勘次郎胡瓜の中に詰まっている。薄く切ると透けてすごく美しいし、真ん中の種を取って半月型に切ると歯ごたえが出る。細く切ったり、コロコロに切ったり、切り方を色々変えて、それぞれにちょっとずつ、塩もみしたり、塩もみしないでパリパリのまま輪切りにしたり、レモンの味をつけたりして。
同じ一本のキュウリなんですけど、いろんな切り方と下ごしらえをしたものを、また一つに合わせました。それから、種のところをジュース状にしてドレッシングにしたものを最後に上からかけました。ひとつのものなんですけど、その中にいろんな物語があっていろんな味がする、という一皿です。
◆ 2品目:「手で食べるホウキタケのマリネ・土の香り」
──赤い珊瑚のような色と形。この見慣れないキノコはどういうものですか?
佐藤 真室川町にはまだ、季節ごとに山菜やキノコをとって暮らしている方もいます。私の知人の俊行さんは、山菜もキノコも採る山の達人。訪問の時期に採れそうなキノコとして、このホウキタケを採りに連れて行ってもらいました。
迷子になりそうな林の竹やぶをかいくぐりながらたどり着くと、ホウキタケが直径4mくらいの輪になって生えていました。ちょっとピンクがかってたり、ちょっと白っぽかったり。鮮やかな紅色になってるものもあって、触るとすごく柔らかかったですね。
──これはどんな料理なのですか?
小桧山 かなり急な斜面にこの赤い奇妙なキノコが現れて、すごく怖いような美しいような、不思議な感じがしました。その時私は足がつってしまって、うずくまっていると山に抱きつくような近さを感じて。土の匂いを嗅ぎながら、なんとかよじ登ってキノコのところまで行って採った。その山での体験を一皿の料理にしたいと思いました。
今回、この料理だけレシピを発表したんですが、出来上がってからどうやって食べるかまでを書いています。土に見立てたゴボウのソテーの上に、茹でたホウキタケを乗せて、キノコが生えている状態を再現したような料理です。これを床に置いて、手で食べるっていうところまでのレシピです。
志鎌 この時は映像も撮影しました。1日目に山に一緒に入って、次の日に手づかみで食べる様子を撮ったのですが、山でキノコを見つけて採るシーンを追体験しているようでした。スーパーで買って来たものを食べるっていうことじゃ無く、山に入って、見つけたものを手で採って食べることを強調しました。
→「トーク『ゆらぎの食卓』レポート(後編)」に続きます。
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※本稿は、新しい視点でローカルを発見し紹介していくサイト「real local山形」のご好意により、2018年3月29日掲載のイベントレポートを転載させていただきました。
https://reallocal.jp/51326