{ インタビュー }

食べる人がいて、つくる人がいて、伝える人がいる
松本典子(山形食べる通信編集長/ふうどの市ファシリテーター)
飲食店が立ち並ぶ市街地の芝生広場に登場した、木製の移動式ワゴン。その上には、回ごとに伝承野菜、果物など旬の食材が並び、ワゴンの横では地元で腕を奮っている料理人たちが、食材を活かしたおいしいフードをふるまう。そこには、山形の広大な畑で育った野菜のように、芝生の上でのびのびと食を楽しむ人々の姿がありました。「山形食べる通信」が大事にしている「ひとつの食材をフォーカスし、山形の食文化をひとつひとつ丁寧に伝える」のコンセプトどおり、週ごとにひとりの生産者を招き、伝えた山形の食文化。〈つくる人〉と〈食べる人〉みんなで味わった収穫祭のような市は、山形の〈風〉と〈土〉の上だからこそ成り立つ食のコミュニケーションでした。

松本さんがファシリテートされた「ふうどの市」についてお聞かせください。
「山形ビエンナーレ2016」会期中の毎週土曜日に、七日町御殿堰緑地で開催した「ふうどの市」は、山形の〈食〉を紹介することで、〈つくる人〉と〈食べる人〉をつなぐ場でした。つくる人とは山形県内の農家さんです。単なる売買の場ではなく、毎週ひとりのゲスト農家さんにフォーカスして、4週で4人を紹介しました。ゲストの方々が育てた野菜や果物、加工品を販売するブースを設け、その隣ではそれらの食材をその場で味わっていただけるよう、地元の料理人がフードを提供しました。同じ日の夜には、お客さんとゲスト農家さんの交流の場としてイベントを開催しました。農家さんの直接販売・食の提供・交流イベントと、生産者と生産物のことを知る3つの段階を設けることで、お客さんが楽しみながら関われるようにしました。例えば、桃農家さんにフォーカスした回では、桃を販売する横で、桃をトッピングした特製ピザを調理して提供しました。その夜は、他の果物農家さんも招いて、その方々のフルーツを使ったカクテルを楽しむイベントを開催しました。

就農者の多い山形県で、どういった視点から4人のゲストを選ばれたのですか?
ふうどの市の名称にもなっている山形の風土、〈風〉と〈土〉を感じられること、山形らしさということから、4つのテーマを設定しました。山形はワインつくりが盛んなので、ひとつ目のテーマは「ぶどう」に決定しました。ふたつ目は「伝承野菜」。「種採り野菜」とも呼ばれますが、農家さんが自分で種を採って育てた自家採種の野菜のことです。山形県は伝承野菜の生産が日本で最も盛んなんですよ。3つ目は山形の伝統食「芋煮」、4つ目はフルーツ王国・山形らしく「果物」でした。このテーマに沿って選んだ農家さんに、参加を呼びかけました。とりわけ、自分たちの生産物を食べる人、つまり買い手となるお客さんと関わることに価値を捉えていて、積極的なつながりを持ちたいと願っている方を選びました。また、山形の将来を見据えて、30代くらいの方にこういった関係づくりの機会をもってもらいたいと考え、若手の農家さんを優先して声をかけました。

「ふうどの市」で開催した企画に、どんな発見や収穫がありましたか?
一番の出会いの場となったのは、夜のイベントでした。農家さんのつくったものをみんなで食べて、つくり手自身の話をその場で聞ける、貴重な機会でした。休日のマルシェなどで、試食しながら農家さんと交流することはあっても、食事を楽しみながらじっくり交流できる機会はなかなかありません。また、山形市内の街中でこういった企画を開催したことがなかったので、今までと違う客層にアプローチできました。面白かったと受け止めてくださる方がいらしたのが嬉しかったです。
私が編集長を務める「山形食べる通信」では、同様の企画を東京で開催してきました。こういった企画を山形で開催するのは今回が初めてでしたが、招聘できる生産者さんの幅がグンと広がりましたね。東京まで来ていただくには、経費がかかるのはもちろんのこと、旬の食材を使うとなると、収穫や出荷の時期と重なるため、必然的に一番忙しい時期になってしまいます。ですが、地元であればちょっと夕方に時間をつくって来ていただく、ということが可能になります。

「ふうどの市」のような場を継続させていくことに、どういった可能性があるでしょうか?
市を継続させていくことで、活動の認知度が上がり、生産者さんのファンも増えてくるはずです。山形市内にも農家さんはいるものの、今回会場となった七日町は商売のエリアで、飲食店はたくさんありますが、農家がほとんどいない地域です。食べることが身近でも、農産物など、食べ物そのものとは距離があるんです。だから、そういった街中に生産者が来ることに大きな意義があります。
今回、農家さんたちにブースで生産物のディスプレイをしてもらったところ、見せ方がすごく上手でした。自分たちのつくったものを知ってもらうことに、とても気を配っていらっしゃるのだとわかりました。若手の農家さんを中心に、SNSを使った情報発信に熱心に取り組まれている方も多いのです。農家さんや、農家さんと仕事をする機会の多い私たちにとっては当たり前の話でも、お客さんからすると新鮮な驚きを生み出した場面が多々ありました。それが嬉しい反面、地元・山形であってもまだまだ知られていないこと、伝えるべきことの重みを実感しました。
さらに、風土は〈風〉と〈土〉を感じることで、その場所を知ることができると思うので、実際につくっている場所に来てもらえるようにしていきたいですね。遠方の方にも、山形に足を運んでもらいたいです。生産者さんを訪ねるツアーの企画なども、地元だからこそできるのではないでしょうか。〈つくる人〉と〈食べる人〉が、同じ場で一緒にご飯を食べたりできるような機会を増やしていくことが理想です。

(2016年11月15日/松本典子宅にて)