{ 座談会/対談 }

こどもとデザインの市―「山の面々」から見えたこと
小板橋基希(akaoni)/是恒さくら(アーティスト)
山形・東北在住のデザイナーとアーティストが集い、「山形ビエンナーレ2018」のお土産として、子どもから大人までが親しめる新しい〈お面〉づくりに取り組んだ半年間の研究会「山の面々」。山の裾野で生活するクリエイターならではの感覚と、表現を伝えるメディアとしてお面を作ることの可能性について、ファシリテーターのお二人にお聞きしました。

——「山の面々」活動報告展では、ユニークな張り子の〈お面〉がたくさん展示されていました。あれはどのようなプロセスでつくられたのですか?

小板橋:市プロジェクトの「こどもとデザイン」をテーマに、是恒さんをはじめとした山形に縁のあるデザイナーとアーティストなど9名に集まってもらい、お面の研究会を立ち上げました。普段はクライアントワークがメインのデザイナーと、美術表現として作品制作をおこなうアーティスなど、少し思考回路の違うクリエーター同士の共同作業です。素材は郷土玩具として昔から作られてきた張り子を使い、自分たちのアイデアを工場で量産するのではなく、自ら手を動かし、粘土での原型制作、石膏型の成型、張子、彩色、仮設店舗の設計まで自分たちでつくる計画を立てました。技術指導は張り子のお面工房「蔵六面工房」(山形県上山市)の伝統工芸士・木村菖一郎さんにお願いし、研究会メンバーにも加わってもらいました。
お祭りの屋台での子ども用の定番商品ということもあり、研究会でできたお面は2018年9月に開催される「山形ビエンナーレ2018」の土産物としての販売を念頭に置いています。

是恒:私は主にリサーチを担当しました。
人類の歴史から振り返ってみると、お面は一種のメディアとして、日本だけでなく世界各地で古くから作られてきました。
研究会のスタート段階では、持ち寄った様々な文献から、古今東西のお面・仮面の表現や使い方をメンバーが学んだのですが、実作のプロセスではあえて、自分たちがよく知っている山形の土着的な要素、民俗的な意味性やヴィジュアルとは離れて考える方向性になったことがおもしろかったです。

小板橋:民俗学や人類学などで語られている言葉から感覚や物語を呼び戻し、過去から学ぶことはとても大切だと思います。しかし今回はそれら忘れられていたものを再発見して「今風に」デザインすることではなく、現在進行形の「いまの山形」をお面に生々しく表現したいと考えました。時代や地域ごとにお面・仮面の表現は様々ですが、クリエイターの感覚はどの時代でもそれほど変わっていないのではないでしょうか。

是恒:メンバーが意識していたのが、いま山形で暮らしている自分自身と山との関係性でしたね。
例えば山に登った時の身体感覚や、自然に対して感じる畏怖・畏敬の念、野生動物たちの気配… それは言葉では言い表せない、日常から非日常へスイッチが入れ替わるような感覚ですから、お面とは相性がよかったと思います。
なかでも、大石田町のフランス人陶芸家、ブルーノ・ピーフルさんのお面は衝撃的でした。
卵のような球体がたくさんくっついた見た目のインパクトもあるけれど、この独特の造形の意図を聞くと、30年以上大石田町のはずれの山の麓で暮らし、日常的に山を歩いて感じる、森の中のたくさんの生き物たちの気配、生命力を表現したそうです。
山に多くの野生が住むことにリアリティを感じている人だから、こういう表現になるのだと納得しました。

——昨今では、ローカルなものを分かりやすく・伝わりやすくデザインし直して、価値を高めていく動きが高まっています。小板橋さんもデザイナーとして日頃はそのようなお仕事をされていると思うのですが、お話を聞いていると「山の面々」研究会は、その逆をいくような取り組みですね。

小板橋:今のクリエイティブシーンでは、地方の文化やものづくりへの民俗学的・学術的なアプローチが深まっていて、とても面白いと思うのですが、ちょっと真面目すぎるというか、そういった情報や印象に偏っているように思います。
古くからそれぞれの共同体で、様々な物語を背景にお面が作られきた中で、もしかしたら、面を着けて舞うパフォーマーの身体性や、お面を作るクリエーターの強烈なキャラクターなどが影響を与えてきた余白部分もあったはず。そういった仮定をもとに、今回は参加クリエーターのそれぞれの面白さに対して、自由で寛容なスタンスで行こうと考えました。

是恒:世界各地のお面の成り立ちを紐解くと、天変地異や自然災害など人の力ではどうしようもない出来事に対して、神に祈るための儀式や祭りの道具として作られています。
神話の登場人物や魔物など、人が人でないものになりかわり、神の世界と人の世界を行き来する機能、自然との橋渡しをする機能がお面にありました。
現代の暮らしの中ではお面をかぶる必要もなく、身の回りの自然に対して関わり方がわからないし、つかみどころがない。
けれどお面を必要なものとしてかぶっていた時代の人たちは、自然と関わる感覚、自分自身の外側の世界への想像力を持っていたはずです。今お面を作ることは、その想像力を取り戻すことでもあるのではないでしょうか。

小板橋:実際にメンバーでお面を作ってみると、同じ山形に住んでいても、全員違う感覚や価値観を持っていて、それぞれの山形というか、所属する「村」を体現しているようでおもしかったですね。なので、僕としてはデザイナーとしてこれらの「山の面々」を分かりやすくまとめることはせず、個々のお祭りの面として、いったん形にしてもらいました。次のステップとして、「山形ビエンナーレ2018」で果たしてこれが売れるのかどうか、個人の感覚が他者に共有されるのかどうかは、さらなる挑戦になりますけどね。

——「子どもとデザイン」というテーマについては、どんな可能性が見えましたか?

是恒:お面をかぶることや祭りを行うことは「大人から子どもに伝えていくこと」だと思います。
祭りが繰り返されて当たり前になっていくと、もともとの意味は薄れていくかもしれないけど、その祭りやお面がある風景がその土地のアイデンティティーになり、原風景になる。
その過程は前の世代から次の世代、大人から子どもへの受け渡しであって、そういう繰り返しをゼロから作っていくことも今回の研究会だったように思います。
今、山形で生きている大人の世代のクリエイションがお面の造形に現れていて、それは身の回りの山とか自然との、自分たちが感じている関係性でもあって、それがどう次の世代に渡っていくのか。
言葉で伝えても伝わらないその実感が、お面に表されるのではないでしょうか。

小板橋:自分の子どもの頃を思い出してみると、泣くほど怖いお面や、かぶってみたくなるお面があったりと、背景や意味がわからなくても忘れられない衝撃がありました。そういった理屈では片づけられない何かとんでもないものは、子どもも大人も関係ないことですし、そういうものを大人が本気で作っている姿も大切だと思います。
お面を一種のメディアとして捉え直すことによって、子どもにも大人にも伝わる地域の表現にしていけると思いますね。

(2018年1月18日/とんがりビルにて)

 

小板橋 基希(こいたばし・もとき)……アートディレクター/デザイナー。株式会社アカオニ代表。1975年群馬県生まれ、大学入学とともに山形に移住。東北の「自然・暮らし・遊び・食べ物」に魅せられ大学卒業後も山形に定住し、2004年にデザイン会社アカオニを立上げる。日常に潜む、みんなの意識の境界にある幻想のようなものを、愉快な形にするとこを目標に、山形市にて「アカるくすなオニ」営業中。

是恒さくら(これつね・さくら)……アーティスト。1986年広島県生まれ。山形県在住。アラスカ州立大学フェアバンクス校で絵画を学んだ後、2015年に山形県に移住、東北芸術工科大学大学院にて地域デザイン研究を専攻(2017年修了)。「記憶の中に留められた思いにかたちをもたらすこと」をテーマに、様々な土地を訪れ、丹念に集めた言葉やイメージをもとに制作を続けている。

 

●市プロジェクト2017 こどもとデザインの市「山の面々」
ファシリテーター:小板橋基希、是恒さくら
メンバー:木村菖一郎、小関司、後藤ノブ、佐藤裕吾、鈴木敏志、高野明子、原田圭、ブルーノ・ピーフル、古田和子 、三瀬伸江
コーディネート:宮本武典(東北芸術工科大学准教授・主任学芸員)
協力:株式会社マルアール、株式会社akaoni、蔵六面工房、ツルヤ商店、貝瀬千里
撮影:根岸功