{ 座談会/対談 }

続けることと、とんがる意思と
ナカムラクニオ(6次元店主/ブックトープフェスファシリテーター)・三瀬夏之介(日本画家、芸術界隈ファシリテーター)
街の図書館に出現した「山形×本」を楽しむ1日限定の本の市「ブックトープフェス」と、山形で制作活動を続けるアーティストたちが芝生広場に自らの作品を持ち込んで繰り広げたアートの市「芸術界隈」。公共の場所や街中にある既存の空間を市の場に変え、人とモノの間にあるコミュニケーションを捉え直すことで、街と人をつなぎ、モノが行き交う場づくりを試みたお二人に、産声を上げたばかりの「市」の姿をお聞きしました。

ファシリテーターとして関わっていただいたおふたりにそれぞれの市を振り返っていただきながら、見えてきた可能性をお聞かせください。
ナカムラ 様々な方が行き交う街の図書館の中で「ブックトープフェス」を開けたことに手ごたえはありましたが、もっと地元の年配の方や子連れの人が来やすいプログラムをつくり、幅広い年齢層に届けられればよかったですね。実際、街を歩くと幅広い年齢層の人たちに出会いますし、例えば、本の街である神保町の古本まつりでは、子どもからお年寄りまで街中にあふれかえります。場をつくることはできましたが、プログラムの内容はもっと改善できそう。本や芸術にあまり触れたことのない人をどう巻き込んでいくが課題ですね。
三瀬 僕がファシリテートした「芸術界隈」では、市があることを知らずにふらっと来た人との出会いが刺激となりました。来場者とのコミュニケーションの中で、美大の中では当たり前過ぎて意識しないような質問にハッと気づかされる場面があり、作家たちはアートの閉じた言葉だけでは伝わらないことを実感して奮起しました。4回という会期の中でトライアンドエラーを重ね、小さな達成と盛り上がりを積み重ねながら、よりよい形にしていけたのが良かったですね。

市をつくるプロセスの中にも多くの成果や変化があったと思います。そのなかで見えてきた課題はありますか?
三瀬 市を開いたことで、山形にこんなにも若いアーティストがいるということが可視化されました。はじめは、なかなかアートと市を結びつけにくかったのですが、彼らと「10年後の山形はどうなっていてほしいか?」という問いかけを共有しながらつくり上げるうちに、個人ではなくグループとして表現し発信していく場として、市を捉えるようになりました。つくる場所や自由さがなくなる時代の流れのなか、イメージや場所を共有する仲間とチームを組んで表現することで、生きる術、アートをつくり続けていく術が見つけやすくなるのではないかと思います。
難しさでいうと、僕らはつくり手ばかりだったので、モノとモノが買われる間のデザインまでは上手くつくれなかったことですね。来場者に対するコミュニケーションを考えたとき、「とんがる」べきか「寄り添う」べきかという、ひとつの大きな選択がありました。寄り添うだけではマルシェになるし、やはりアートをつくる僕たちはとんがる方向に行こうと決めて、ホワイトキューブという非日常を街中に挿入しようとして、あの空間ができました。

都市に消費されるだけでなく、地域のなかで文化を享受しつながりをつくっていくことは大事なことだと思います。
三瀬 「芸術界隈」では、ここでつくられたものをここで楽しむシーンをつくる、“アートの地産地消”を試みました。山形にはアートを買う習慣がまだあまりないので、「1回買う」という経験をなんとか誘惑していく場面をつくりたかった。あとは、つくった人がその場にいる対面形式の販売だったので、作家自身の言葉を届けることで、この作家を応援したいといった感情が生まれ、作品の購入につながることを期待しました。

買う行為の「入り口」として市を捉えると、可能性は広がりそうですね。買う仕組みが成熟している本の分野では、どのような捉え方をすると面白い展開が期待できるでしょうか?
ナカムラ 今回は仙台から多くの来場者があり、予想以上に周辺地域の人が注目してくれていると感じました。本好きは県を越えて来てくれるので、だからこそ山形が本のシーンの中心地となって、東北を引っ張っていけるかも知れません。そのためには中心になる人がいて、中心になる活動があることが必要です。
とんがりビルのような文化的拠点が地域の中にいくつかあって、カルチャーが生まれ発信する場ができつつありますが、プログラムをつくれる人がまだ少ない。そういった人を育てるスタートとしても、「市プロジェクト」はよい試みだったのではないでしょうか。

現場自体をプロモーションしていく人材を育てるという意味ではどうでしたか?
三瀬 今回の活動を通して、そういう人材が出てきたと感じます。市には多くの芸工大卒業生らが関わっていますが、みんなよいものをつくっているのに、自信がない人が多い(笑)。でも続けざるを得ないくらい、表現に対して切実な思いを抱えています。「芸術界隈」は、それをすくい、陽のあたるところに持っていく荒療治のような行為だったかしれません。今回の活動をきっかけに、今後色々なプロジェクトが誕生していくんだろうなという予感はありますね。
ナカムラ まだまだ、自分が中心になりたいという人が少ないように感じます。市の運営に参加した方でカフェをやりたいという方がいるんですが、そういう自分がリーダーとなって街を変えていこうとする人を見つけて育てていくことが重要だと思います。

今回見えたコミュニティ以外の人にも参加してもらうことで、次の展開が見えてくるのかもしれませんね。
三瀬 ひとつの声だけを取り上げて発信していくのではなく、様々なチームが挙げた声が連なって届けられることで、その街ならではの表情が見えてくるように思います。今回の市によって、そのグラデーションがいくつか生まれたのではないでしょうか。
ナカムラ 今回は古本市や読み聞かせなど、すでにプロジェクトを実行している方々を中心に参加してもらいましたが、次回は本とは違う分野の人に関わってもらうなど、全く新しい試みに挑戦してもよいのかなと思います。会期中だけでなく、その途中をつなぐ何かがもっとあるとよいのかも知れません。持続させるには労力がいりますが、定期的に市を開いていくことで場と人をつなげ、この街の中で山形ならではのシーンを育てていきたいですね。

(2016年11月27日/やまがた藝術学舎にて)