{ レポート }

ストーリーが街をつくる〜これからの建築・空間・地域・暮らし方〜
ナカムラクニオ(6次元店主/ブックトープフェスファシリテーター)
竹内昌義(建築家、東北芸術工科大学教授)
山形で〈本〉と〈街〉が関わることの可能性を広げていこうと、市内での「ブックトープフェス」をはじめ、本にまつわるさまざまなプロジェクトを同時進行させたナカムラクニオさん。「山形ビエンナーレ2016」会期中限定でオープンさせた、無人書店「7次元」で開催したセミナーでは、建築家の竹内昌義さんを招き、これからの街と建築の可能性を、本という切り口から語った。
(2016年9月11日/BOTAcoffee 2Fにて)

会期中、無料配布された短編小説集『ブックトープ山形』を手に、来場者が街をめぐり歩く姿がそこかしこで見られた。本を読むように街をとらえ、新たなストーリーで見ていくことに、これからの建築、空間、地域と暮らし方の、幸福なつながりを考える鍵がある。
中古物件や空き物件のリノベーションを多数手がけてきた竹内さんは、地域の価値を高めるという視点から、ストーリーの重要性を語った。空き物件を多数抱える地方で、建物と空間の可能性を広げるには、本をつくる上で欠かせない「編集」に似た作業が必要となる。例えば、そのエリアで暮らすことをイメージして、街並みをストーリー仕立てで展開させてみよう。
おしゃれなカフェのある通りに、美味しいパン屋や趣味のいい古着屋をつくるとする。その界隈に足を運べば、一度にいくつもの買い物を済ませられる。人が往来すれば、活気も生まれる。舞台をつくるように想像することで、そのエリア自体の価値が高まる。講演会や朗読会など、言葉で情報を発信するイベントは、場所を問わず最小限の設備があれば開催できる。
セミナーの会場となった7次元は、元傘屋をリノベーションしたカフェの店舗2階にあり、改装はされているものの、普段はあまり使用されていない。こういった、立地が良いにもかかわらず見落とされている〈空き空間〉は、ときおりイベント用に貸し出すだけでも、利益を産むことができ、そのエリアに人が足を運ぶようになる。空き物件の利用は、多くの可能性を秘めている。多くの地方都市と同様に、山形市では中心市街地の空洞化が進んでいる。使われなくなった不動産の良さを発掘し、そこを舞台に新たなストーリーを産み出すことで、街は魅力を恢復する。身近な場所で、「こうなってほしい」という物語を自ら進めていくことが、これからの地域での暮らしを豊かにしていくはずだ。

(東北芸術工科大学地域連携推進室)