新年の 1 月 10 日、山形市では江戸時代初期から続く恒例の「初市(十日市)」 が華やかに立つ。湯殿山神社境内にある市神を祀り、十日町、本町、七日町のメインストリートを露店が埋め尽くして、色とりどりの団子木や初飴、白ひげや蕪など縁起物の野菜を求める人たちで賑わう。 ものづくりに興味がある人なら、B 級グルメの屋台に押されながら、カゴや臼、 まな板や梯子などが控えめに売られていることに気づくだろう。
かつてこの界隈で「市」とは、里山の人と町の人が「モノ」を介して出会い、交わる場所だった。その原型が、かろうじて残っていることを誇りに思いながら、しかし実際にカゴや木地の類を手にとって産地を聞いてみると、その多くが山形ではないのである。 織物も、カゴも、野菜も、菓子も、陶器も、酒も、地域誌も、「モノづくり」には違いなく、木地師の里は今はなくとも、過剰な消費サイクルや下請け・孫請け構造に甘んじることなく、自分の信じる手仕事を諦めない継承者たちはちゃんと存在する。
そのような農家、職人、工芸家たちが、今後も生業をきちんと成り立たせていくには、地域の実態と価値観に沿った「モノがたり」の語り口を習熟させていく必要があり、それを可能にする場は、公に保護された美術館や劇場や大学ではなく、つくり手と買い手が対等かつ抜け目ないコミュニケーションを交わす、「市」でのリアルな実践ではないかと仮説したのである。
「市プロジェクト」は、東北芸術工科大学が文化庁「大学を活用した文化芸術推進事業」に採択され、「地域資源を地域資本へ転換する場と人の育成」を目指す事業である。地場のものづくりを中心に多様な職能を持つ人々が集まり、2016 年 9 月の「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ 2016」 開催期間中に、初市と同じエリアに複数の実験的な市をひらいた。手仕事(山姥市)、ファッション(山形衣市 iiti)、アート(芸術界隈)、本(ブックトープフェス)、農作物(ふうどの市)、工芸(山の形ストア)の6つの市ではいずれも、「市をたて・ひらく」行為のなかで、文化表現のための新たなネットワークや地産地消の仕組みを模索していった。本WEBサイトはそのプロセスの証言記録である。
市プロジェクトコーディネーター/山形ビエンナーレプログラムディレクター
宮本武典