{ 解説 }

街は五感で楽しむ「言葉のテーマパーク」
ナカムラクニオ(6次元店主/ブックトープフェスファシリテーター)

「街全体を本棚にできたら面白いんじゃないか?」そんな夢のような発想から生まれた新しい試みが、山形ビエンナーレをきっかけに実現しました。
「ブックトープ山形」は、「本の街プロジェクト」の総称です。山形市内全体を「本棚」に見立て、街全体を「文学」にし、すべての読者を「物語の主人公」にする実験的なアートプロジェクト。よく考えてみると、街は視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚を刺激する情報に溢れていて、五感で楽しむ「言葉のテーマパーク」なのです。
ブックトープ(BOOKTOPE)とは、「本を使った情報ビオトープ装置」のこと。ビオトープとは、ギリシャ語のbio(生き物)と topos(場所)を合わせた造語で、ちいさな生態系を意味します。水草がたくさん生えている水槽の中で、メダカが餌もやらないのに元気に生きている……そんな風景と似ています。まずは新しいガイドマップ「ブックトープ山形」の作成からスタート。MAP LABO.[注1]のメンバーとともに山形市内をフィールドワークして、ちいさな短編集の編集作業が始まりました。街は、歴史をまとった本のような存在。そして、言葉と時間を束ねた1冊の本は、街とよく似ています。
最初に、思考と行動が循環する仕組みを考えました。①地図を見ながら街を散歩。気になる場所を見つけたら訪ねてみる。②その場所にまつわる小説を読んでみる。街そのものが巨大な本棚だということに気づく。読者は、物語の一部となり街の一部になる。③再び街を歩いてみる。もし迷子になったとしてもそれは「物語」の演出。あなたは「五感で楽しむ本」の中の住人となる……このような仕掛けです。そして、完成した「ブックトープ山形」は、空想と現実をミックスした「街を足で読む本」となりました。
次に、山形の「山の形をした本棚」をKAGU LABO.[注2]の皆さんにつくってもらい、街の空きスペースに配置しました。これによって、街全体が有機的につながる「ちいさな図書館」に変換されます。ピンク色のかわいい山(の形をした本棚)を発見する喜びも加わり、山形の街の日常をゲーム感覚で楽しめるという仕組みです。
9月の山形ビエンナーレ会期中には、ブックトープフェスという名の「本の市」を企画し、山形県立図書館等を複合する文化施設「遊学館」でイベントを開催。山形で活動する一箱古本市や読書会のメンバーたちとともに、「山形×本」の可能性を拡張すべく、ブックマルシェやワークショップを開催しました。さらに、七日町にあるシネマ通りの「BOTAcoffee」2階では、無人書店「7次元」を営業。複合的に街を「本棚化」することに挑戦しました。しかし、このプロジェクトは、まだ終わっていません。さらに進化した新しい本棚をつくってみたいと考えています。例えばそれは、こんなキーワードで説明することができます。

1 . BOOK BANG=ブックバン。情報革命後の新しいメディアをつくる。
2 . BOOK ON=ブックオン。本の価値を高める活動を広める。
3 . BOOK TOURISM=ブックツーリズム。本で地域を観光化する。
4 . BOOK LIVE=ブックライブ。リアルタイムで音楽のように本を楽しむ。
5 . BOOK HUNTER=ブックハンター。情報狩猟をゲーム化する。
6 . BOOK THERAPY=ブックセラピー。本で心や身体を癒す。
7 . BOOK TOPIA=ブックトピア。本のある街、理想郷を作る。

つまり、これは「BOOK TO THE FUTURE (ブック・トゥー・ザ・フューチャー)」……本で未来を変えるプロジェクトです。そして、何より大切なのは、すべてが終わった後に、次の物語が始まること。これからの山形で、どんな新しい物語が紡がれていくのか、見届けていきたいと思います。

[注1]MAP LABO.
「みちのおくつくるラボ(2015年度)」でナカムラクニオが講師として参加したプログラムのひとつ。市民と実在の店舗や名物店主に実際に取材・執筆をし、地図小説を制作。街の様々な場所に設置して無料配布した。
[注2]KAGU LABO.
「みちのおくつくるラボ(2015年度)」でTIMBER COURT(代表:相田広源)が講師として参加したプログラムのひとつ。「山の形をした本棚」他、オリジナルの本棚を制作した。